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株式の相続で争わないための対策

株式の相続で争わないための対策

 

後継者が事業を相続する場合に、株を相続させる遺言が遺されるときに問題が起こります。

それは、後継者以外の相続人は納得していないことが多く遺留分を主張して少しでも遺産を取り戻そうとするからです。

しかも、株式の相続は評価や税金なども関わってくるために、簡単には進みません。

ではどうすればいいか、株式の遺産分割・遺留分請求について考えましょう。

 

株式の遺産を受け取り、遺産分割の話合いで遺留分のトラブルに

 

長男Aが姉妹2人で相続の話合いになりましたが、遺言書があり、会社は全てAに譲るとなっていました。そこで、姉妹2人に遺留分を現金で請求され支払うことになりました。しかし、遺産は株式しかないために、現金の支払いには、株式の売却手数料や損益部分の税金などで、株式の評価額以上に支出する現金が増えてしまうことになります。

 

Aが姉妹と話合い「現金ではなく株式で払う」と主張したいのですが、株式を譲ることはできないのでしょうか。

 

H.30年法改正で
遺留分は金銭支払いが原則となりました。


1.遺留分は現金で支払う必要があるのか?

 

この相続のケースでは、Aの場合親の遺言で、全ての財産をAに相続で承継すると定められています。遺言があるので、姉妹は一切の相続財産を取得することができないのですが、遺留分(遺産の内で、一定の割合を姉妹は保障されています)は侵害していることになります。

 

当然、姉妹は長男Aに対し遺留分を主張できますが、Aは遺留分侵害額を現金で支払わなければならないのか、遺産の株式を姉妹に譲渡することで解決することができないか、悩んでいるところです。

 

2.民法改正の前後で長男Aの対応は変わります

 

(1)改正前は原則遺留分を現物で解決していた

 

平成30年に民法が改正され相続の遺留分に関する規定も変わりました。これにより、相続では改正法が適用されるかどうかを考える必要がでてきました。

 

改正前の民法では、遺留分を「遺留分減殺請求権」と呼び遺留分侵害をした遺言や贈与は効力を失わせることができました。このケースでも、姉妹は遺留分侵害をした部分の効力はないので、株式を取り戻すことができます。そこで原則として現物(株式)を取り戻すことで解決することになります。

 

(2)改正後は金銭による解決になります

 

改正後の遺留分の権利は、「遺留分侵害額請求権」と呼びます。遺留分を侵害した金額に相当する金銭を支払うように請求できる権利です。改正前のように、遺言や贈与を失効させることはできませんが、株式を共有できる状態に戻すこともできません。そこで、長男Aは、遺留分の侵害額に相当する現金を姉妹に支払うことになります。

 

そこで、令和元年7月1日以降の相続については、改正後の規定が適用されることになります。長男Aの父親の相続が令和元年7月1日以降開始したのであれば、現金で解決することになります。

 

今後、遺言書を作成する場合は、遺留分侵害に十分注意して、もしも遺留分侵害をすることになるのであれば侵害額を現金で支払うことを考慮しながら遺言書の内容を検討するようにしましょう。

 

(3)遺言書がないときには?

 

遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。

 

なお、株式の遺産分割は、株式の評価方法、分割方法で相続人間でもめる可能性が高くなり、株式を取得したい相続人が希望する分割は難しくなることが予想されます(遺産分割協議で合意できない場合は、家裁の審判で決着することになります)。

 

そこで、遺産分割では争いになりますので、親としては遺言書を作成して生前から株式の移行対策を行っておくべきでしょう。

 

遺留分の特例や
信託の活用による生前対策例

 

1.株式相続の生前対策の必要性

遺言書を作成して株式を特定の相続人(会社の後継者)に相続させると決めていても、他の相続人の遺留分を侵害すると、遺留分侵害額の金銭負担の問題が必ず起こることになります。事業承継問題では会社の株式を承継させる際に、後継者が遺留分のために現金の支払で負担を負う可能性が高くなります。

会社の事業承継問題を解消する方法として色々ありますが、ここでは、その一例として、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)を利用した遺留分に関する民法の特例制度及び信託を活用した事業承継スキームをご紹介します。

2.遺留分に関する民法の特例制度

経営承継円滑化法の中の遺留分に関する民法の特例を活用して、後継者及び現経営者の推定相続人全員の合意を得ることにより、現在の経営者から将来会社を経営していく後継者に贈与等された自社株式につき、(1)遺留分算定基礎財産から除外すること(除外合意)、(2)遺留分算定基礎財産に算入する価額を合意時の時価に固定する(固定合意)ことができます。

 

長男Aの親が、会社の代表者兼オーナーであり、会社の全株式をAに承継したいと考える場合、上記民法の特例制度を利用することができます。

 

その方法は上記(1)の除外合意をして、後継者であるAが、現経営者である親から自社株式の贈与等を受けていても、相続人の姉妹は、遺留分の主張をできなくなります。結果として、相続発生後の紛争リスクを抑え、後継者に株式を集中させて承継させることが可能になります。

 

なお、上記(2)の固定合意の場合は、相続発生までに自社株式の価額が上昇しても、合意時の時価で遺留分額を計算することになるので、後継者の相続時に株式価値が増加するようなことになっても、相続時に過大な遺留分額の請求を受けることはないでしょう。

しかし、この特例制度の利用においては、推定相続人全員の合意が必要だということに注意が必要となります。 

 

3.事業承継対策に信託を利用する方法

高齢者の財産管理や財産承継対策として、家族信託を利用する方が増えてきています。

家族信託とは、自分の老後や判断能力の低下に備えて、自分の財産(自宅、預貯金、株式等)の管理や処分する権限を、信頼できる家族等に任せることです。

 

長男Aの親が、死後は会社の全株式をAに承継させたいと考えた場合、信託制度を利用すると、遺留分の問題も避けながら事業承継を実現できる可能性があります。

 

それは、株式が(1)配当を受ける権利等の「自益権」、及び議決権を行使する権利等の「共益権」の二つに区別されますが、後継者であるAに対して(2)の議決権を行使する権利等を残し、姉妹には、(1)の配当を受ける権利等を残すことを契約書に明記するというものです。すると、長男Aは会社の事業に必要な権利を保有し、姉妹は、配当を受ける権利を保有するので、遺留分侵害の可能性が低くなりからです。

 

生前に事業承継の相続対策として、親は遺言書や民法の特例制度及び信託制度などを活用して争いを避けるための相続対策を検討することが大切です。

 

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