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父の遺言で兄妹間の「争続バトル」

父の遺言で兄妹間の「争続バトル」

 

「うちは大丈夫」と考え相続の対策していない家族には、相続トラブルが待っていることが多くあります。この場合、相続の対立は「争続」と呼ばれような深刻な争いに発展してしまいます。

 

甲さんの父が末期のガンと診断されて倒れたのは、最近でした。甲さんは入院の手配から始まり、最後はホスピスの転院まで兄弟の中で一人だけで父の世話をする毎日が続き、治療費や介護費用も甲さんが捻出してました。

 

 

父が死んでしまうと思い、目の前が真っ暗になる日々でした。最後は、「父が亡くなったら本人名義の銀行口座は凍結されてしまう」と知人から聞いて、甲さんは焦りました。そこで、これまでの介護費用や葬儀代に充てるため200万円を引き出したのです。これがいけませんでした。相続が始まった時に大問題になるとは予想もしてなかったのです。

 

兄と弟は妹のことを「泥棒」扱いにしたのです。あくまで入院費用と葬儀代として下ろした200万円が、兄妹間で激しい「相続バトル」になったのです。ここから、どうすれば相続トラブルを防ぐことができたのか考えてみましょう。

 

相続が始まると兄と弟は200万円を下ろしてその行方を追及してきました。

 

「この通帳の200万円引き落としの理由はなんだ」――弟は甲さんが銀行から引き出したお金の使い道とその理由について激しく詰問してきました。しかも、葬儀の最中に詰め寄ってきたのです。通夜と葬儀には親戚も来ている中で大声を上げたのです。

 

まさかこんな場所で大声を上げて詰め寄るとは考えていませんでしたから、甲さんは唖然としました。兄も弟は介護の手伝いは一切していませんし、また経験もありませんから父の死で経済的な問題などの不安など理解できない状態でした。ただ、父の通帳からお金が引き出されているということだけが心配だったのだと思います。

 

しかし、父の闘病生活にわずか3か月とはいえ付き合ってきたのは甲さんだけです。医師の診断では、末期ガンでそう長くはないと言われていましたが、亡くなる日を予想できるわけがありません。終わりの見えない闘病生活に寄り添う甲さんにとっては、本当につらかったのです。

 

無我夢中で一人で父親の世話をしてきましたが、対応は適切だったと思います。医療費の心配から、ATMを使い200万円引き出したことは間違ってなかったと思っていましたから、兄弟に責められる意味がわかりませんでした。

 

ところで、父親の遺産は、自宅と1000万円弱の現金と受取人は甲さんになっていたる死亡保険でした。

また父親は生前に遺言を書いていて、長らく長男と次男とは疎遠だったこともあり、遺言書に「万一のときには、甲にすべての財産を相続させる」と書いてありました。

兄弟達には、その遺言もおもしろくない一因だったと思います。

 

兄と弟からは、ATMで引き出した200万円以外に、父の遺産を勝手に使っていたんだろうと激しく責められました。

それは、自分の金のようにATMの限度額まで引き出していたことが、証拠だと言われました。さすがに、私も堪忍袋が切れて、大ゲンカになりました。

 

兄弟と甲さんの間は修復などできないほどのレベルの亀裂が走り、兄弟は家裁に遺留分侵害額請求の調停手続きを進めたのです。

ここで、「遺留分」の説明をしますが、遺留分とは、法定相続人に一定の割合の相続財産の承継を保障する制度(相続人の生活費の確保)で、この場合は、兄弟は二人で相続財産の3分の1を請求する権利があります。

 

さらに、兄弟と甲さんは、お互い弁護士を雇いましたので会話もできない状態です。

 

甲さんは兄弟が結婚してからはめったに会うことはありませんでしたが、もともと仲が悪いわけではありませんでした。

それが、相続をめぐってこんな状態になってしまったのでしょうか。

 

そもそも、どうすればよかったのか?

 

相続で深刻な家族間トラブルを引き起こさないためには、お父さんや兄弟姉妹はどのような対策プランを行っておけばよかったのでしょうか?

ここで整理しておきましょう。

 

1.「預かり金」の活用

父親が元気なうちに、将来発生するかもしれない介護費用や葬儀代などの一定額を「預かり金」として甲さんに預けて管理させるのです。

この場合、証拠として「預かり証」をお父さんが作成すること、また預かり金専用の口座を開設してその中で管理することが大切です。

 

預かり金は、贈与税が発生する贈与と認定されたり、兄弟から「勝手に使った」と非難されたりする恐れをさけるためには、甲さんのものとは別の口座で管理することをおすすめします。

 

もしも、預かり金から費出した場合には、その使途がわかるように領収書を残すのがベストですが、無い場合には用途をメモで残すことが大切です。

これを徹底すれば、税金や相続にまつわるトラブルを法的に避けることができます。

 

1. 家族信託制度の利用の検討

 

行政書士などの専門家に相談して、兄弟姉妹を受託者として一定の財産を託す「家族信託」制度を活用するという方法もあります。

受託者(兄弟姉妹など)は、「介護費用」「葬式代」といった信託目的に従って問題なく預金から引き出すことができます。

 

2. 預貯金の仮払い制度の利用

 

「預貯金の仮払い制度」が2019年から新たに創設されました。

この制度は一定の条件を満たせば、遺産分割前でも、法定相続人(兄弟姉妹)ならば被相続人名義(父)の預貯金から最大150万円を引き出せるという制度です。

 

この制度によって、甲さんが心配していた「口座が凍結されると介護費用や葬儀費用が払えなくなる」、また残った家族が「生活費をおろせない」という事態が防げることになりました。

 

番外契約制度

3. 任意後見制度の利用の検討

お父さんが元気なときに、ご自分がもしも寝たきりや認知症になったときのために財産管理や介護の手伝いをしてくれる信頼できる人を決めておく制度です。

このケースでは、お父さんが甲さんを指名して、元気なときに甲さんと契約書を交わしておけば、もしもの時に役立ちます。

また、公正証書にしておくことで行政や金融機関などでも安心して使えます。この機会に、検討しておくことをお進めします。

 

しかし、家族が亡くなったときには、介護費用や葬儀代はもちろん、予想外の出費が重なるものです。

いざというときにあわてないためにも、事前に用意しておきたいものですが、これらの手続きを知っておくことで、相続になった時に誤解やトラブルを防ぐことができます。

 

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