「遺言があれば安心」は本当か?

遺言があれば安心」は本当か?

相続というと、「遺言さえあれば揉めない」と思っている人が多いかもしれません。でも実際には、遺言があることでかえって家族間のトラブルが起きることも少なくありません。特に「自筆証書遺言」は、手軽に作れる反面、内容や形式に問題があると、相続人の間で不信感や不満を生み出す原因になってしまうのです。

たとえば、ある家庭で父親が亡くなり、遺言書が見つかりました。そこには「全財産を長男に相続させる」とだけ書かれていたとします。他の兄弟姉妹は「なぜ自分たちには何もないのか」と納得できず、遺言の真意を疑ったり、長男に対して不信感を抱いたりするかもしれません。こうした感情のもつれが、相続トラブルの火種になるのです。

相続は、単なる財産の分配ではなく、家族の関係性や感情が深く関わる問題です。だからこそ、遺言を書くときには「形式の正しさ」だけでなく、「家族が納得できる内容かどうか」も大切なポイントになります。

自筆証書遺言と公正証書遺言の違い

遺言には法律上7つの方式がありますが、実務でよく使われるのは「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つです。それぞれの特徴とメリット・デメリットを見てみましょう。

自筆証書遺言の特徴

自筆証書遺言は、全文を自分で手書きし、日付と署名、押印をして作成する遺言です。費用がかからず、自宅で思い立ったときにすぐ作れるという手軽さが魅力です。近年では、法務局での保管制度も始まり、保管の安全性は向上しています。

ただし、以下のようなリスクもあります:

書式の不備で無効になる可能性がある

法務局に保管しない場合、家庭裁判所での「検認」が必要

紛失や改ざん、隠匿のリスクがある

本人が書いたかどうか疑われることがある

特に、病床で作成された遺言や、内容が偏っている場合は「誰かに書かされたのでは?」と疑われやすく、相続人の間で争いが起きる原因になります。

公正証書遺言の特徴

公正証書遺言は、公証役場で公証人が作成し、原本を公証役場に保管する方式です。作成時には本人確認や意思確認が行われ、証人2名の立ち会いも必要です。

この方式のメリットは:

書式の不備がなく、法的に確実

家庭裁判所の検認が不要

紛失や改ざんの心配がない

作成の経緯が記録に残るため、信頼性が高い

費用は財産の額や内容によって数万〜十数万円かかることもありますが、トラブルを避けるための「安心料」と考えれば、十分に価値がある方法です。

 

なぜ遺言がトラブルを生むのか?

「遺言があるのに、なぜ揉めるのか?」と疑問に思うかもしれません。実は、相続トラブルの多くは「感情のもつれ」や「不信感」から生まれます。以下に、よくあるトラブルの原因を紹介します。

1. 生前の支援に対する不公平感

「兄は留学費用を出してもらった」「妹は私立大学に行かせてもらった」「弟は家を買うときに援助してもらった」など、生前の親からの支援に差があると、それが相続時に不満の種になります。

当時は感謝していたとしても、相続の場面になると「自分は何もしてもらっていない」と感じてしまうことがあります。これは「隣の芝生は青い」心理に近く、他人の支援が自分よりも良く見えてしまうのです。

2. 相談不足による不信感

遺産の調査や手続きを特定の相続人が主導して進めると、他の相続人が「自分は蚊帳の外にされた」と感じることがあります。特に、長男や長女が中心になって動くケースでは、「勝手に決められた」と不満が噴き出すことも。

3. 不動産の扱いで意見が割れる

不動産は分けにくく、売却するか、誰かが住むか、共有にするかで意見が分かれやすい財産です。「自分が損をしているのでは」と疑念が生まれ、対立が深まることもあります。

4. 偏った遺言内容

特定の相続人に財産が偏っていると、他の相続人は「なぜ自分には何もないのか」と納得できず、感情的な争いに発展します。法的に有効な遺言であっても、気持ちの面で納得できなければ、トラブルは避けられません。

家族を守る遺言にするために

では、どうすれば遺言が「争いの火種」ではなく「家族を守る贈り物」になるのでしょうか?そのための具体的な工夫を紹介します。

1. 理由を添えて納得感を高める

遺言の内容に「なぜそのように分けたのか」という理由を添えることで、他の相続人の理解を得やすくなります。

たとえば:

「長男に自宅を相続させる」→「同居して介護をしてくれたから」

「長女に現金を多めに残す」→「家業を支えてくれたから」

こうした理由は、遺言の「付言事項」として記載することができます。また、家族への手紙や動画、あるいは生前に説明の場を設けることも有効です。

2. 信頼性の高い形式で作成する

自筆証書遺言を選ぶ場合は、法務局の保管制度を利用することで、紛失や改ざんのリスクを減らせます。ただし、より確実性を求めるなら、公正証書遺言の方が安心です。

また、遺言の中に過去の恨みや批判的な言葉を残すのは避けましょう。感情的な表現は、家族を傷つけ、争いを激化させる原因になります。

3. 財産目録を整理しておく

遺言と一緒に、財産の一覧(不動産、預貯金、株式など)を整理しておくと、相続手続きがスムーズになります。これにより、相続人が「何がどれだけあるのか」を正確に把握でき、誤解や疑念を防ぐことができます。

4. 相続がまとまらないときの対応

相続人全員の合意が得られない場合、家庭裁判所で「遺産分割調停」を行います。調停委員が間に入り、話し合いをサポートしてくれますが、時間や費用、精神的な負担も大きくなります。

相続がまとまらないときの対応 相続人全員の合意が得られない場合、家庭裁判所で「遺産分割調停」を行います。調停委員が間に入り、話し合いをサポートしてくれますが、時間や費用、精神的な負担も大きくなります。 調停が不成立の場合は「審判」に進み、裁判官が分割内容を決定します。ただし、希望通りの結果になるとは限らず これから先はどうなるのか?

 

ここからは、調停が不成立になった後の流れと、さらに深刻化する可能性についてご説明します。

5. 審判で決まる相続の行方とその限界

家庭裁判所での調停が不成立となった場合、次に進むのが「遺産分割審判」です。これは、裁判官が相続人全員の主張や証拠をもとに、誰がどの財産を相続するかを法的に決定する手続きです。

審判では、民法に基づいた公平な分割が原則となるため、感情的な事情や家族間の関係性はあまり考慮されません。たとえば、「長男が親の介護をしていたから多くもらうべきだ」と主張しても、それを裏付ける証拠がなければ、裁判所は認めないこともあります。

つまり、審判はあくまで「法的な基準」に従って機械的に判断されるため、相続人の希望や感情が反映されにくく、「納得できない」という不満が残ることもあるのです。

6. 相続争いがさらに複雑化するケース

審判に進んでも解決しない場合、相続問題はさらに複雑化することがあります。たとえば、以下のような争点が新たに浮上することも・・・

遺言の有効性をめぐる訴訟:「この遺言は無効だ」として、遺言の取り消しを求める裁判が起こされることがあります。特に、遺言が病床で作成された場合や、特定の相続人に偏った内容だった場合に多く見られます。

遺産の範囲をめぐる争い:「これは遺産に含まれるのか?」という点で意見が分かれることもあります。たとえば、親名義の預金が誰かの口座に移されていた場合、それが贈与なのか、預かり金なのかで争いになることがあります。

使い込みや不正の疑い:特定の相続人が生前に親の財産を管理していた場合、「勝手にお金を使っていたのでは?」と疑われ、使途不明金をめぐる訴訟に発展することもあります。

こうした争いが起きると、相続問題は何年にもわたって長期化し、弁護士費用や裁判費用もかさみます。さらに、家族関係の修復はますます難しくなり、兄弟姉妹が絶縁状態になることも珍しくありません。

7. 争いを防ぐために今できること

ここまで読んで、「相続って本当に大変なんだな…」と感じたかもしれません。でも、だからこそ今のうちからできることがあります。

家族で話し合う時間を持つ:元気なうちに、財産の内容や希望を家族と共有しておくことが大切。突然の相続ではなく、準備された相続がトラブルを防ぐカギになります。

遺言に理由を添える:財産の分け方に納得感を持ってもらうには、「なぜそうしたのか」を伝えることが重要。付言事項や手紙、動画など、伝え方はいろいろあります。

信頼性の高い方法で遺言を残す:公正証書遺言や法務局の保管制度を活用して、形式的な不備や改ざんのリスクを減らしましょう。

専門家に相談する:相続相談福岡センターの専門家に相談することで、より確実で円満な相続の準備ができます。

まとめ:遺言は「家族への最後の贈り物」

遺言は、単なる財産の分配指示ではなく、家族への最後のメッセージでもあります。形式を整え、理由を添え、感情に配慮することで、遺言は「争いの火種」ではなく「家族を守る贈り物」になります。

相続は、誰にとっても避けられないテーマ。だからこそ、早めに準備を始めて、家族が安心して未来を迎えられるようにしておくことが大切です。

 

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