どうすれば遺言書で失敗しないか

相続の実務でよく起きる“トラブルの原因”を踏まえながら、どうすれば遺言書で失敗しないかを分かりやすくまとめてみます。

失敗しない遺言書作成とは何か

相続の現場では、遺言書があるのに揉めるケースが少なくありません。 その多くは、次のような「書き方の問題」や「準備不足」が原因です。

失敗しない遺言書作成とは、 法律的に有効で、かつ相続人が迷わず実行でき、争いを生まない遺言書を作ること を指します。

相続の現場でよくある失敗の実例

1. 遺言書があるのに“無効”になってしまったケース

ある高齢の男性が、自筆証書遺言を残して亡くなりました。内容は「自宅は長男に相続させる」というシンプルなもの。しかし、遺言書には日付が抜けていたため、法的に無効と判断されました。

家族は「本人の意思は明らかだ」と主張しましたが、法律は形式に厳格です。結果として遺産分割協議が必要になり、長男と次男の間で意見が対立。 「父は長男ばかり優遇していた」 「いや、介護をしていたのは自分だ」 と感情的な争いに発展し、調停まで進みました。

教訓:遺言書は“内容”よりもまず“形式”が重要。専門家のチェックがない遺言は、無効リスクが高い。

2. 財産の記載が曖昧で、相続人が混乱したケース

ある女性が残した遺言書には、 「預金は長女に相続させる」 と書かれていました。しかし、実際には銀行口座が5つあり、どれを指しているのか不明。

さらに、解約済みの口座番号が書かれていたり、逆に記載されていない口座があったりと、相続人は大混乱。銀行に照会し、残高証明を取り、調査に数ヶ月を要しました。

その過程で、 「母は長女にだけ財産を渡すつもりだったのか」 「いや、単に書き忘れただけだ」 と兄弟間の不信感が高まり、関係が悪化しました。

教訓:財産は“特定できるように”正確に書く。曖昧な記載は争いの火種になる。

3. 相続人の気持ちを考えず、偏った分け方で争いになったケース

ある父親は、長男に家業を継がせるため、ほぼ全財産を長男に相続させる遺言を作成しました。しかし、次男・三男には何の説明もなく、付言事項もなし。

父の死後、遺言を見た次男と三男は激怒。 「父は自分たちを見捨てたのか」 「長男だけが可愛かったのか」 と感情的な対立が起き、遺言の有効性を争う裁判に発展しました。

最終的には遺留分侵害額請求が行われ、長男は多額の支払いを余儀なくされ、事業資金が圧迫される結果に。

教訓:偏った相続をするなら、必ず“理由”を付言事項で伝える。説明不足は争いの最大要因。

4. 財産の把握不足で“隠し財産”扱いされてしまったケース

ある男性が亡くなった後、相続人が財産調査を進めていたところ、家族が知らない証券口座が見つかりました。遺言書にも記載がなく、家族は 「長男が隠していたのでは」 と疑い始めました。

実際には、本人が単に家族に伝え忘れていただけ。しかし、疑心暗鬼になった家族は話し合いができなくなり、調停に発展。調停委員が間に入るまで、兄弟は口もきかない状態が続きました。

教訓:財産目録を作り、家族が把握できるようにしておくことが重要。

5. 介護した子への配慮がなく、感情的な争いになったケース

母親の介護を10年以上続けた長女。しかし、遺言書には「財産は子ども3人で均等に」とだけ書かれていました。

長女は 「私は母のために仕事も辞めて介護したのに、他の兄弟と同じなのは納得できない」 と主張。 一方、他の兄弟は 「遺言にそう書いてあるのだから従うべきだ」 と譲りません。

結果、遺産分割協議はまとまらず、家庭裁判所へ。 長女は“寄与分”を主張しましたが、証拠が不十分で認められず、深い不満を残す結果に。

教訓:介護した子への感謝や配慮は、付言事項で必ず伝えるべき。

6. 公正証書遺言を作ったのに、更新しなかったために問題が起きたケース

10年前に公正証書遺言を作った男性。しかし、その後に孫が生まれ、財産も増え、家族関係も変化。 にもかかわらず遺言を更新しなかったため、現状に合わない内容に。

相続人は 「今の状況なら、父はこうはしなかったはずだ」 と主張し、遺言の内容に不満を抱きました。

遺言自体は有効でしたが、家族の納得が得られず、遺産分割協議は難航。 結局、遺言の“意図”を巡って家族が対立することに。

教訓:遺言は“作って終わり”ではなく、定期的な見直しが必要。

まとめ:相続の失敗は“書き方”よりも“準備不足”が原因

相続の現場で起きるトラブルの多くは、

書き方の不備

財産の把握不足

相続人への説明不足

気持ちへの配慮不足

更新しないまま放置 といった“準備不足”から生まれます。

遺言書は、単に財産を分けるための書類ではなく、 家族の未来を守るためのコミュニケーションツール です。

 

相続の現場でよくある失敗例

● ① 法的に無効になる

日付がない

署名がない

押印がない

代筆やパソコンで作成してしまう(自筆証書遺言の場合)

● ② 内容が曖昧で解釈が分かれる

「長男に自宅を相続させる」→自宅の特定が不十分

「預金は妻に」→どの銀行のどの口座か不明

「仲良く分けなさい」→具体的な割合がない

● ③ 財産の把握が不十分

本人も把握していない口座や不動産がある

借金や保証債務が記載されていない

● ④ 相続人への配慮不足

特定の相続人に偏りすぎて不満が出る

介護した子への配慮がない

事業承継の意図が伝わらない

失敗しない遺言書作成のポイント

● ① 法的に有効な形式で作る

公正証書遺言が最も安全

自筆証書遺言なら、全文・日付・署名・押印を自筆で書く

法務局の「自筆証書遺言保管制度」を活用すると安心

● ② 財産を正確に特定する

不動産は登記簿通りに記載

預金は銀行名・支店名・口座番号まで

株式・保険・負債も漏れなく書く

● ③ 相続人の気持ちを考える

なぜその分け方にしたのか「付言事項」で説明

介護した子への感謝

事業承継の理由 付言事項は法的拘束力はないものの、争いを防ぐ効果が大きいです。

● ④ 専門家にチェックしてもらう

弁護士

司法書士

行政書士

税理士(相続税の観点から)

相続の現場では、専門家のチェックがあるかどうかでトラブル発生率が大きく変わります。

まとめ

失敗しない遺言書作成とは、 ①法的に有効で、②内容が明確で、③相続人が納得しやすい遺言書を作ること。 そのためには、財産の把握、書き方のルール、相続人への配慮、専門家の確認が欠かせません。

 

付言事項の文例を家族構成別に5例ほど

付言事項は、法的拘束力こそありませんが、相続人の気持ちを和らげ、遺言の意図を明確に伝えるために非常に効果的です。 家族構成ごとに、実務でよく使われる自然な文例を5パターン用意しました。

① 配偶者+子ども2人の場合

文例

1.

「これまで家族を支えてくれた妻と、成長してくれた子どもたちに心から感謝しています。今回の遺言は、妻の生活を第一に考えて決めたものです。どうか理解して助け合っていってほしいと思います。」

2.

「子どもたちには平等に愛情を注いできました。今回の分け方は、将来の生活状況を考慮した結果です。互いに尊重し、円満に手続きを進めてください。」

3.

「私の財産は多くありませんが、家族が穏やかに暮らしていけるよう願ってこの内容にしました。どうか争うことなく、仲良く分けてください。」

4.

「妻には長年の感謝を込めて、生活の安定を願いこのように定めました。子どもたちはそれぞれの道で頑張ってほしいと思います。」

5.

「家族がこれからも良い関係でいてくれることが私の一番の願いです。遺言の内容にこだわりすぎず、皆で話し合いながら進めてください。」

② 子どもが1人のみの場合

文例

1.

「一人で育ててきたあなたに、私の思いを託します。無理のない範囲で手続きを進め、あなたの人生を大切に歩んでください。」

2.

「あなたがこれからも安心して暮らせるよう、このような内容にしました。どうか健康に気をつけ、幸せに生きてください。」

3.

「財産は多くありませんが、あなたへの感謝の気持ちです。困ったときは周囲の人を頼り、無理をしないようにしてください。」

4.

「私の判断でこのように定めましたが、あなたの負担にならないよう願っています。必要に応じて専門家に相談してください。」

5.

「あなたが幸せであることが私の願いです。遺言の内容はそのために考えたものですので、どうか前向きに受け取ってください。」

③ 子どもがいない夫婦の場合

文例

1.

「長年連れ添ってくれた配偶者に感謝しています。あなたの生活が安定するよう、このように定めました。どうか安心して暮らしてください。」

2.

「私たちには子どもはいませんが、互いを支え合ってきた年月を大切に思っています。残された財産はあなたのために使ってください。」

3.

「兄弟姉妹にはこれまでの関係に感謝していますが、配偶者の生活を最優先に考えました。どうか理解してもらえると嬉しいです。」

4.

「私の死後も、あなたが困らないようにと願ってこの内容にしました。必要なときは周囲の人を頼ってください。」

5.

「家族や親族には感謝していますが、私の思いは配偶者に託します。円満に手続きが進むことを願っています。」

④ 再婚で前妻(前夫)との子どもがいる場合

文例

1.

「現在の家族と、前妻(前夫)との子どもたちの双方を大切に思っています。今回の内容は、皆ができるだけ不満なく過ごせるよう考えた結果です。」

2.

「家族構成が複雑なため、このような分け方にしました。どうか互いを尊重し、円満に手続きを進めてください。」

3.

「前妻(前夫)との子どもたちにも、これまでの関係に感謝しています。現在の配偶者の生活も守りたいという思いから、この内容にしました。」

4.

「皆が安心して暮らせるようにと考えた結果です。どうか争うことなく、理解し合って進めてください。」

5.

「私の気持ちはどの家族にもあります。今回の遺言は、全員の将来を考えて決めたものです。どうか円満に進めてください。」

⑤ 事業を継ぐ子どもがいる場合(事業承継)

文例

1.

「事業を継いでくれる○○には、これまでの努力に感謝しています。会社の安定のため、このような内容にしました。他の家族もどうか理解して支えてください。」

2.

「事業承継は家族全体の将来を考えた決断です。相続人の皆には、それぞれの生活を大切にしながら協力してもらえると嬉しいです。」

3.

「会社を守ることが家族の生活を守ることにつながると考えています。どうかこの意図を理解し、円満に手続きを進めてください。」

4.

「事業を継ぐ子には責任が伴います。他の相続人には、その負担を理解してもらい、必要に応じて支えてあげてください。」

5.

「私の願いは、家族が協力し合い、事業が安定して続くことです。今回の遺言はそのために考えたものです。」

 

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