70代高齢者が遺言を書かない理由

70代の高齢者が「自分の相続」を急がない・動かない理由

―相続手続き準備が進まない深層心理と行動メカニズム―

1.はじめに:なぜ「理解しているのに動かない」のか

70代の高齢者は、相続セミナーに参加し、アンケートでは 「家族に迷惑をかけたくない」「遺言は大切だと思う」 と書くにもかかわらず、個別相談に来ない・遺言を書かない・準備を進めない。

これは決して「怠けている」「先延ばし癖」ではありません。 高齢者特有の心理・身体・家族関係・社会背景が複雑に絡み合った結果です。

本稿では、70代が動かない理由を 心理・身体・家族関係・制度理解・社会背景・行動科学 の6つの観点から徹底的に整理します。

2.心理的理由:高齢者が「相続準備」を避ける深層心理

2-1. 死を連想する行為への本能的抵抗

遺言を書くことは、 「自分の死を具体的に想像する行為」 です。

人間は本能的に死を避ける心理(死の防衛機制)を持っています。 特に高齢者は、死が現実に近づいているため、 死を直視する行為を避ける傾向が強まる。

例:

遺言を書く → 死を認めるようで嫌

財産を整理する → 余命を意識してしまう

相続の話をする → 家族に「弱った」と思われそう

この心理は、専門家のコメントでも指摘されています。 「遺言書を作るのは縁起が悪いという心理的抵抗が大きい」

2-2. 「まだ大丈夫」という未来回避バイアス

高齢者は、 「自分はまだ元気」「まだ死なない」 という認知バイアスを持ちやすい。

70代は、

まだ車を運転できる

旅行も行ける

友人も元気 という状態が多く、 「自分はまだ相続準備をする年齢ではない」 と感じやすい。

しかし実務では、 相続人が60〜70代である老老相続が急増しており、 認知症や体力低下で手続きが進まないケースが多い。

2-3. 「面倒くさい」ではなく「複雑すぎて理解できない」

高齢者は、 理解できないことを“面倒くさい”と表現する 傾向があります。

相続は

戸籍

不動産

預金

税金

遺産分割協議 など、専門用語が多く、70代には理解が難しい。

特に老老相続では、 手続きが複雑で役所通いが負担になることが指摘されています。

理解できない → 不安 → 行動停止 という流れが起きる。

2-4. 「家族に嫌われたくない」心理

遺言を書くことは、 「財産をどう分けるか」=家族の評価を決める行為 です。

高齢者は、

子どもに嫌われたくない

兄弟姉妹に恨まれたくない

親族間の火種を作りたくない という心理が強い。

そのため、 遺言を書くことで誰かが不満を持つのでは? と考え、行動を止めてしまう。

2-5. 「家族が揉めるのは嫌だが、自分が決めるのも嫌」

高齢者は、 “揉め事は避けたい”が“自分が決める責任も負いたくない” という矛盾した心理を持つ。

遺言を書くと、

誰に多く渡すか

誰に少なくするか

不動産を誰に相続させるか など、決断が必要。

決断はストレスであり、 決めた後の家族の反応が怖い。

結果、 「遺言は大切だと思う」 と言いながら、 決断を先延ばしにする。

 

3.身体的・認知的理由:70代の行動力を奪う現実

3-1. 体力の低下で「役所に行く」「書類を書く」が負担

70代は、

役所に行く

金融機関に行く

書類を書く

戸籍を集める などの行動が大きな負担。

老老相続では、 役所通いの負担が大きいことが問題と指摘されています。

3-2. 認知機能の低下で「判断」が難しい

70代は、軽度の認知機能低下(MCI)が増える。

情報の整理が苦手

新しい制度を理解できない

判断に時間がかかる

間違うことが怖い

そのため、 「間違えたらどうしよう」→行動停止 が起きる。

3-3. 視力・聴力の低下で説明が理解できない

字が小さくて読めない

専門家の説明が聞き取れない

同じ話を何度も聞かないと理解できない

理解できない → 不安 → 行動しない という流れが起きる。

3-4. 病気・通院・介護で「相続どころではない」

70代は、

持病

通院

介護

体調不良 が日常化している。

相続準備は、 「元気な人がやるもの」 という認識があり、 体調が悪いと 「今は無理」 となる。

4.家族関係の理由:70代が最も悩む「人間関係のしがらみ」

4-1. 子どもに本音を言えない

70代は、子どもに遠慮する。

財産の話をすると「欲深いと思われる」

遺言の話をすると「死を急かされている気がする」

家族会議をすると「揉めるのが怖い」

そのため、 家族と話し合うこと自体がストレス。

4-2. 兄弟姉妹との関係が複雑

老老相続では、 兄弟姉妹も高齢で、長年の感情が絡む ことが指摘されています。

昔の介護の不公平

親の援助の差

仲が悪い

連絡が取れない

こうした関係が、 遺言を書く決断を妨げる。

4-3. 「誰かが反対するかもしれない」という恐怖

遺言を書くと、 誰かが不満を持つ可能性がある。

高齢者は、

家族の不満

親族の反発

兄弟姉妹の嫉妬 を極端に恐れる。

そのため、 「波風を立てるくらいなら、何もしない方がいい」 という結論に至る。

5.制度・手続きの理解不足:複雑さが行動を止める

5-1. 相続制度が複雑すぎる

相続は、

戸籍

遺産分割協議

相続登記

税金

成年後見 など、多岐にわたる。

老老相続では、 認知症の相続人がいると手続きが止まる ことが大きな問題とされています。

制度が複雑 → 理解できない → 行動しない という流れ。

5-2. 「遺言があれば簡単になる」ことを知らない

多くの高齢者は、 遺言があると手続きが劇的に楽になる ことを知らない。

特に、

相続人全員の合意が不要

認知症の相続人がいても進められる

不動産の名義変更がスムーズ というメリットを理解していない。

5-3. 成年後見制度への誤解

老老相続では、 認知症の相続人がいると後見人が必要 と指摘されています。

しかし高齢者は、

後見人は財産を取る

家族が自由に使えなくなる

手続きが大変 など、誤解を持っている。

誤解 → 不安 → 行動停止 となる。

6.社会的背景:高齢者が動けない環境要因

6-1. 老老介護・老老相続の増加

老老相続では、 相続人自身が高齢で、判断や手続きが難しい ことが指摘されています。

70代は、

親の介護

配偶者の介護

自分の通院 など、生活が忙しい。

相続準備は後回しになる。

6-2. 情報過多で何が正しいかわからない

インターネットには、

遺言

家族信託

成年後見

相続登記義務化 などの情報が溢れている。

高齢者は、 情報が多すぎて選べない → 行動しない となる。

6-3. 「専門家に相談する」ことへの抵抗

70代は、

お金がかかりそう

何を聞けばいいかわからない

相談内容をまとめられない

叱られそう という不安を持つ。

そのため、 専門家に相談するという行動自体がハードル。

 

7.行動科学から見た「高齢者が動かない理由」

7-1. 人は「損失回避」で動く

行動経済学では、 人は得より損を避けるために動く とされる。

しかし高齢者は、

相続準備をしない損失(家族が困る) より

遺言を書くストレス(死を意識する) の方が大きく感じる。

結果、 行動しない方が心理的に楽。

7-2. 高齢者は「現状維持バイアス」が強い

年齢が上がるほど、 現状を変えることへの抵抗 が強くなる。

遺言を書くことは、

財産を整理する

家族関係を見直す

将来を考える という「変化」を伴う。

変化が怖い → 行動しない。

7-3. 「決断疲れ」で判断できない

高齢者は、

病院の選択

介護サービスの選択

生活の工夫 など、日常で多くの決断をしている。

相続のような大きな決断は、 精神的負担が大きすぎて避ける。

8.まとめ:70代が動かないのは「理由がある」

70代の高齢者が相続準備をしないのは、 怠けているのではなく、 心理・身体・家族関係・制度理解・社会背景・行動科学 が複雑に絡み合った結果です。

9.「行動を促すポイント」

セミナー参加者(70〜80代)が動かない理由は、 上記の通り「複合的」です。

だからこそ、 “正しい知識”では人は動かない。

高齢者が動くのは、

不安が具体化したとき

行動のハードルが極端に低いとき

相談のきっかけが自然なとき です。

 

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