75歳の高齢者は相続を考えているか

1.75歳代の高齢者は相続について考えているのか

―「考えているが、行動しない」という二重構造

75歳代は、相続について“考えてはいる”が“行動しない”という特徴があります。

1-1. 75歳は「相続を意識し始める年齢」

厚労省の統計では、 75〜79歳の認知症有病率は10.4%、 80〜84歳では22.4%と急上昇します。

つまり75歳は、 「そろそろ準備しないといけない」 と“頭では理解している”年齢です。

しかし、実務では次のような声が多い:

「まだ元気だから大丈夫」

「相続のことを考えると気が滅入る」

「遺言は必要だと思うけど、まだ早い」

「家族が揉めないと思うから大丈夫」

=考えているが、行動には移さない。

2.認知症リスクが迫っても動かない理由

―心理・身体・認知・家族関係・制度理解の5層構造

2-1. 死を連想する行為への本能的抵抗

遺言を書くことは、 「自分の死を具体的に想像する行為」 です。

人間は死を避ける心理(死の防衛機制)を持つため、 高齢者ほど「死を直視する行為」を避けます。

遺言を書く → 死を認めるようで嫌

財産整理 → 余命を意識してしまう

相続の話 → 家族に弱ったと思われそう

=行動を止める最大の心理要因。

2-2. 「まだ大丈夫」という未来回避バイアス

75歳は、

車の運転ができる

旅行に行ける

友人も元気 という状態が多く、 「自分はまだ相続準備をする年齢ではない」 と感じやすい。

しかし現実には、 認知症は80歳を境に急増する。

「まだ大丈夫」 という感覚は、心理学的には 未来回避バイアス と呼ばれ、行動を先延ばしにする典型的な要因。

2-3. 手続きが複雑すぎて理解できない

相続は、

戸籍

不動産

預金

税金

遺産分割協議 など、専門用語が多く、75歳には理解が難しい。

理解できない → 不安 → 行動停止 という流れが起きる。

特に、 認知症の相続人がいると遺産分割協議ができない という事実は、一般の高齢者はほとんど知らない。

2-4. 「家族に嫌われたくない」心理

遺言を書くことは、 財産の配分=家族の評価を決める行為。

高齢者は、

子どもに嫌われたくない

兄弟姉妹に恨まれたくない

火種を作りたくない という心理が強い。

そのため、 遺言を書くことで誰かが不満を持つのでは? と考え、行動を止めてしまう。

2-5. 認知症の現実を直視したくない

認知症は、 自分の人格が失われる恐怖 を伴うため、 高齢者は話題にすること自体を避ける。

しかし現実には、 認知症になると

預金が凍結される

不動産が売れない

遺産分割協議ができない という問題が発生する。

=直視したくない現実ほど、行動を止める。

2-6. 家族関係の複雑さ

75歳は、

子どもが50代

兄弟姉妹も高齢

親族関係が複雑化 している。

相続の話をすると、 「揉めるのが怖い」 という心理が働き、行動しない。

2-7. 「専門家に相談する」ことへの抵抗

高齢者は、

お金がかかりそう

叱られそう

何を聞けばいいかわからない

書類を揃えられない という不安を持つ。

=相談行動そのものがハードル。

 

3.家族が心配を伝える最も効果的な方法

―高齢者の心理構造に合わせた“伝え方”が必要

75歳の高齢者に相続の話をするとき、 正論・事実・危機感では動かない という前提が重要。

高齢者が動くのは、 「自分のため」ではなく「家族のため」 という動機が最も強い。

4.家族が使うべき「伝え方の原則」

原則①:高齢者の“尊厳”を守る

高齢者は、 「自分はまだしっかりしている」 という感覚を大切にしている。

そのため、 「認知症になる前に」 「早くしないと困るよ」 という言い方は逆効果。

原則②:本人ではなく“家族の困りごと”として伝える

高齢者は、 自分のための準備には消極的 だが、 家族が困ることには敏感。

例:

「お母さんが困る」→動かない

「私たちが困る」→動く

原則③:責めず、お願いベースで伝える

高齢者は、 「やらされている」 と感じると拒否する。

原則④:抽象論ではなく“具体的な困りごと”を示す

例:

「相続で困るよ」→響かない

「預金が凍結されて、葬儀費用が出せなくなる」→響く

「不動産が売れなくて、施設費が払えなくなる」→響く

5.家族が使える“実際の会話テンプレート”

テンプレ①:尊厳を守りながら伝える

「お母さんがしっかりしている今だからこそ、 お母さんの考えをちゃんと聞いておきたいの。」

テンプレ②:家族の困りごととして伝える

「私たちが困らないように、 お母さんの気持ちを教えてほしいだけなんよ。」

テンプレ③:認知症リスクを“本人ではなく制度の問題”として伝える

「認知症になると、銀行が手続きを止める仕組みになっとるらしいとよ。 お母さんが悪いんじゃなくて、制度の問題なんよ。」 (※認知症で預金が凍結されるのは事実)

テンプレ④:専門家に行く理由を“家族の負担軽減”にする

「私たちだけじゃ整理できんけん、 一緒に専門家さんに話を聞きに行ってくれん?」

テンプレ⑤:決断を迫らず、最初の一歩だけお願いする

「今日は決めんでいいけん。 まずは話を聞くだけ、一緒に行ってくれん?」

 

6.高齢者が実際に動き出す“心理トリガー”

トリガー①:家族の負担を減らしたい

高齢者は、 「家族に迷惑をかけたくない」 という動機が最も強い。

トリガー②:自分の意思を残したい

認知症になると意思が伝えられないため、 「自分の考えを残したい」 という欲求が強まる。

トリガー③:専門家が“味方”だと感じたとき

高齢者は、

優しい

丁寧

わかりやすい 専門家に出会うと、急に行動が進む。

7.家族が絶対にやってはいけないNG行動

「早くしないと困るよ!」と急かす

「認知症になる前に!」と脅す

「兄弟が揉めるよ」と不安を煽る

「遺言を書いて」と命令する

「なんで動かないの?」と責める

=すべて逆効果。行動が完全に止まる。

8.まとめ:75歳は“行動しないのが普通”。だからこそ家族の伝え方が重要

75歳の高齢者は、

相続の必要性は理解している

認知症リスクも頭ではわかっている

しかし心理的抵抗が強く、行動しない

という構造にあります。

だからこそ、 家族が「正しい伝え方」をすることで初めて動き出す。

 

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