家族信託とは 

家族に財産を託す「家族信託」とは

―認知症・相続・事業承継に備える新しい財産管理の仕組み―

1.そもそも家族信託とは

家族信託とは、自分の財産を信頼できる家族に託し、目的に沿って管理・運用・処分してもらうための仕組みです。 法律上は「民事信託」と呼ばれ、信託銀行が行う商事信託とは異なり、家族間で柔軟に設計できる点が特徴です。

家族信託が注目される背景には、

認知症による資産凍結リスク

成年後見制度の硬直性

遺言では対応できない生前の財産管理

二次相続・三次相続までの承継設計ニーズ などがあります。

厚労省の統計では、75歳以上の約3割が要介護・要支援認定を受けており、判断能力低下は誰にでも起こり得る現実的なリスクです。 そのため、「判断能力があるうちに、将来の財産管理を家族に託しておく」という考え方が広がっています。

2. 家族信託の基本

家族信託は、次の3者で構成されます。

● 委託者(いたくしゃ)

財産を託す人。通常は財産の所有者本人。

● 受託者(じゅたくしゃ)

財産を託され、管理・運用・処分を行う人。 多くは子どもや配偶者などの家族。

● 受益者(じゅえきしゃ)

信託財産から生じる利益を受け取る人。 委託者本人が受益者となる「自益信託」が一般的。

● 仕組みのイメージ

委託者が財産の名義を受託者に移す

受託者は信託契約に基づき財産を管理

利益は受益者が受け取る

つまり、名義(管理権限)と利益(受益権)を分けることで、柔軟な財産管理が可能になります。

3. 信託ができる財産・できない財産

● 信託できる財産(例)

不動産(自宅・賃貸物件・土地)

現金

有価証券(株式・投資信託・債券)

動産(車・美術品など)

金銭債権(賃料債権・貸付金など)

● 信託できない財産

借金・保証債務

年金受給権・生活保護受給権(=一身専属権)

預貯金口座そのもの(※預金は信託口口座に移すことで対応)

4. 家族信託が注目される理由

4-1. 認知症による資産凍結の防止

認知症になると、銀行は本人の意思確認ができないため、 預金の引き出し・不動産売却・契約変更ができなくなることがあります。 これが「資産凍結」です。

家族信託を設定しておけば、

受託者が信託口口座から必要な支払いを行える

不動産の売却・修繕・賃貸なども可能 となり、生活費・介護費の支払いに困ることがありません。

4-2. 成年後見制度との柔軟さは家族信託にメリットあり

成年後見制度は家庭裁判所の監督下で行われ、

不動産売却には裁判所の許可

贈与・相続税対策は原則不可

後見人報酬が継続的に発生 などの制約があります。

家族信託は、

契約で定めた範囲内で自由に管理

継続費用なし

資産組み換え・売却も柔軟 という利点があります。

4-3. 遺言より広い設計が可能

遺言は「死亡後の財産の分け方」しか指定できません。 一方、家族信託は、

生前の財産管理

認知症発症後の管理

二次相続・三次相続までの承継指定 が可能です。

5. 家族信託の具体的な活用ケース

5-1. 認知症対策

最も多い活用目的です。

例:自宅不動産の管理

親が自宅を子に信託

親が認知症になっても、子が修繕・賃貸・売却を判断

施設入居費用に充当できる

5-2. 預金の管理

信託口口座を作ることで、

親が認知症になっても口座が凍結されない

生活費・医療費・介護費を子が支払える

5-3. 賃貸物件の管理

受託者が大家として契約

賃料は受益者(親)の生活費に

修繕・建替え・売却も可能

5-4. 障がいのある子の生活支援

親亡き後も、

信頼できる家族が財産を管理

子の生活費・医療費を継続的に支出 という仕組みを作れる。

5-5. 事業承継

自社株を信託し、議決権の行使を受託者に任せる

経営権の安定化

後継者育成の期間を確保

 

6. 家族信託のメリット

● 認知症になっても財産管理が継続

資産凍結を防ぎ、生活費・介護費の支払いが滞らない。

● 柔軟な資産承継設計

二次相続・三次相続まで指定できる。

● 成年後見制度より自由度が高い

裁判所の許可が不要で、資産組み換えがスムーズ。

● 遺言ではできない生前管理が可能

生前から死後まで一貫した財産管理ができる。

● 家族が受託者のため費用が抑えられる

信託銀行のような高額な手数料が不要。

7. 家族信託のデメリット

● 節税効果はない

信託しても相続税評価額は変わらない。

● 遺留分侵害額請求は排除できない

信託で財産を移しても、相続人の遺留分は残る。

● 身上監護はできない

介護・医療・施設入所の契約などは後見制度の領域。

● 受託者の負担が重い

財産管理の責任

帳簿管理

受益者への報告 などが必要。

● 契約内容が不適切だとトラブルに

目的が曖昧

権限の範囲が不明確

受託者の選任が不適切 などは後の紛争につながる。

 

8. 家族信託の流れ

(実務で一般的な流れ)

① 信託の目的・財産・受託者を決める

何のために信託するのか

どの財産を信託するのか

誰に管理を任せるのか

② 信託契約書の作成

公正証書にするのが一般的

目的・権限・受益者・終了時の帰属先などを明記

③ 名義変更(信託登記)

不動産の場合は登記が必要。

④ 信託口口座の開設

預金・有価証券を管理するための専用口座。

⑤ 運用開始

受託者が契約に基づき財産管理を行う。

9. 家族信託と比較すると

● 成年後見制度との比較(要点)

項目 家族信託 成年後見制度

開始時期 判断能力があるうちに設定 判断能力低下後

管理の自由度 高い 裁判所の監督下で制約多い

不動産売却 契約の範囲で可能 裁判所の許可が必要

費用 初期費用のみ 後見人報酬が継続発生

● 遺言との比較

項目 家族信託 遺言

効力発生 契約締結時 死亡時

生前管理 可能 不可

二次相続指定 可能 不可

10. 家族信託を成功させるポイント

● 目的を明確にする

「認知症対策」「障がいのある子の生活支援」「事業承継」など。

● 受託者の選任は慎重に

誠実性

事務処理能力

長期的な関与が可能か

● 契約内容を専門家と作り込む

権限の範囲

受益者の変更

終了時の帰属先

後継受託者の指定

● 他制度との併用を検討

成年後見制度

遺言

生前贈与

保険 などと組み合わせることで、より強固な対策が可能。

まとめ

家族信託は、

認知症による資産凍結を防ぎ

家族が柔軟に財産管理でき

生前から死後まで一貫した承継設計ができる という、これまでの制度にはない大きなメリットを持つ仕組みです。

一方で、

契約内容の設計

受託者の選任

他制度との併用 など、専門的な判断が必要な場面も多くあります。

「家族に迷惑をかけたくない」「自分の意思を将来まで確実に反映したい」 という方にとって、家族信託は非常に有効な選択肢となります。

 

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