自筆証書遺言の法務局保管・申請が12万超

法務局保管制度は「自筆証書遺言の弱点を大幅に減らす制度」であり、申請件数が12万件を超えたのは“合理的なメリットがあるから”です。 ただし、内容の有効性は保証されないため、制度のメリットを正しく理解したうえで使う必要があります。 

自筆証書遺言の法務局保管制度はなぜ12万件を超えたのか

―メリット・背景・注意点―

1 制度の急増は「自筆証書遺言の弱点」を補う仕組みだから

2020年7月に始まった自筆証書遺言書保管制度は、開始6年で12万2212件の申請に達しました(2026年5月時点)。 

この数字は、単なる話題性ではなく、自筆証書遺言の構造的な弱点を補う制度として“合理的に選ばれている”結果です。

自筆証書遺言は手軽で費用もかからない一方、次のような致命的なリスクを抱えています。

紛失・盗難・隠匿

改ざん・書き換え

家族が発見できない

検認が必要で手続きが遅れる

方式不備で無効になりやすい

これらは、遺言を残す本人にとっても、遺族にとっても深刻な問題です。 法務局保管制度は、これらの弱点を「公的保管」という形で補うため、利用が急増しています。

2 法務局保管制度の本質的メリット(制度の核となる4点)

① 紛失・改ざん・隠匿のリスクがほぼゼロになる

法務局は遺言書を原本+画像データで長期間保管します。 原本は死亡後50年、画像データは150年。 

自宅保管では避けられない「紛失」「隠匿」「改ざん」のリスクが、公的保管によってほぼ消滅します。

② 家庭裁判所の検認が不要になる

自筆証書遺言の最大の手間である「検認」が不要になります。 裁判所も、法務局保管の遺言書情報証明書は検認不要と明言しています。 

これは相続開始後のスピードと負担を劇的に軽減します。

③ 全国どこの法務局でも閲覧・証明書取得が可能

画像データで管理されているため、原本保管局でなくても全国どこでも閲覧できます。 

高齢の相続人が遠方に住んでいても手続きが進めやすい点は、実務上非常に大きなメリットです。

④ 相続人への通知制度がある

誰か一人が閲覧・証明書を取得すると、他の相続人全員に「遺言書が保管されている」旨が通知されます。 また、死亡時通知(指定者通知)もあり、遺言者が指定した最大3名に死亡確認後すぐ通知されます。 

「遺言があるのに誰も気づかない」という最悪の事態を防ぎます。

 

3 制度が選ばれる社会的背景

① 多死社会で相続トラブルが増加

日本は年間死亡者数が160万人を超える多死社会。 相続件数が増えるほど、遺言の必要性は高まります。

② 自筆証書遺言の“手軽さ”と“危険性”のギャップ

紙とペンで書ける手軽さは魅力ですが、

無効になりやすい

発見されない

改ざんされる という危険性が広く知られるようになりました。

法務局保管制度は、このギャップを埋める「ちょうど良い選択肢」として受け入れられています。

③ 公正証書遺言の費用負担

公正証書遺言は最も安全ですが、

公証人手数料

証人2名の確保

専門家費用 など、費用と手間が一定かかります。

法務局保管制度は手数料3,900円と極めて安価。 

「公正証書ほどではないが、自宅保管よりは安全」という中間選択肢として最適です。

4 制度の具体的メリット

●メリット1:形式不備のリスクが減る

法務局は「外形的チェック」を行います。 全文自書・日付・氏名・押印など、形式面の不備を防げます。 

ただし、内容の有効性までは保証しません(後述)。

●メリット2:遺言書の存在が“確実に伝わる”

通知制度により、相続人が遺言書を知らずに遺産分割を進めてしまう事故を防ぎます。

●メリット3:相続開始後のスピードが段違い

検認不要のため、

預金解約

不動産名義変更

相続税申告 などがスムーズに進みます。

●メリット4:高齢者でも使いやすい

2026年の省令改正で、DV被害者等の住所非表示措置が導入され、より安全に利用できるようになりました。 

5 制度の重要ポイント

① 内容の有効性は保証されない

法務局は形式チェックのみで、

遺留分侵害

財産特定の不備

不動産表示の誤り

法的に無効な内容 などは一切チェックしません。 

つまり、形式は整っていても内容が無効になる可能性は残るということです。

② 本人が必ず法務局に出頭する必要がある

代理申請・郵送申請は不可。 高齢者にとっては負担になる場合があります。 

③ 撤回・変更のたびに法務局へ行く必要がある

遺言内容を変更する場合、再度出頭が必要です。

④ 自筆で書く以上、複雑な内容には不向き

財産が多い・家族関係が複雑・遺言執行者の指定が必要などの場合は、公正証書遺言が適します。

 

6 公正証書遺言との比較

種類 安全性 費用 手続き 内容の有効性 向いている人

自筆証書(自宅保管) 低い 0円 検認必要 無効リスク高い とりあえず書きたい人

自筆証書(法務局保管) 中程度(保管は安全) 3,900円 検認不要 内容は自己責任 手軽+安全性を求める人

公正証書遺言 非常に高い 数万円〜 検認不要 公証人がチェック 確実に残したい人

法務局保管制度は、 「自筆証書の弱点を補い、公正証書ほどの費用をかけたくない人向けの中間選択肢」 として位置づけられます。

7 制度を使うべき人・使わない方が良い人

●使うべき人

遺言を手軽に残したい

紛失・改ざんが心配

家族に確実に遺言を伝えたい

費用を抑えたい

財産内容が比較的シンプル

●使わない方が良い人

財産が多い・複雑

相続人同士が対立している

遺留分侵害の可能性がある

不動産が複数ある

遺言執行者を確実に指定したい

こうした場合は、公正証書遺言が適します。

8 制度の「本当の価値」

法務局保管制度の価値は、単なる保管ではありません。

●価値1:遺言の“発見率”がほぼ100%になる

通知制度により、遺言が埋もれることがなくなります。

●価値2:相続開始後のスピードが劇的に上がる

検認不要は、相続実務において非常に大きなメリットです。

●価値3:高齢者の心理的ハードルを下げる

「公正証書は大げさ」「専門家に頼むのは気が引ける」という高齢者でも利用しやすい。

●価値4:家族の負担を減らす

遺言が確実に見つかり、検認不要で手続きが進むため、家族の負担が大幅に減ります。

9 制度の注意点(専門家として必ず伝えるべき点)

●注意点1:内容の有効性は保証されない

制度の最大の限界。 専門家のチェックなしで書くと、内容が無効になる可能性が残ります。

●注意点2:財産目録の作成は慎重に

本文は自筆だが、目録はパソコン作成が可能。 ただし、財産特定の誤りは無効の原因になります。

●注意点3:不動産の表示は登記簿と一致させる

よくあるミス。 登記簿の表題部を正確に写す必要があります。

●注意点4:遺留分侵害に注意

遺留分を侵害すると、遺族間の争いが起こる可能性があります。

10 まとめ:法務局保管制度は「自筆証書遺言の弱点を補う合理的な制度」

紛失・改ざん・隠匿を防ぐ

検認不要で手続きが早い

全国どこでも閲覧可能

通知制度で遺言が確実に伝わる

手数料3,900円で利用できる

これらのメリットが、申請件数12万件という数字を生みました。

ただし、 内容の有効性は保証されないため、専門家のサポートと併用することが最も安全です。

 

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